「滝沢さんは柴田聡子やよだまりえと同じく僕のムサビの元教え子で、最初はキャンパス内で手焼きのCD-Rを貰ったのだった。
最初に聴いた彼女のうたは、今とは少し違ったものだったけれど(もっとストレンジで野蛮だった)、淡々としているようで不思議な意志の強さを感じさせる佇まいは変わっていないと思う。
ほんとうのことを言えば、彼女のデビュー作もHEADZから出るかもしれなかったのだ。
だがその時点では時期尚早だと僕には思え、そうこうしているうちに別のレーベルからアルバムが出た。
それは好ましい作品だったが、やはり僕は同じことを思った。彼女のうたはもっともっと良くなる筈だ、と。
そしてそれからまた時が流れて、何度か目の前で彼女が唄うのを見て、僕はある時思った。いよいよだ、と。
こうしてHEADZからのセカンド・アルバムの話がスタートし、今こうして『a b c b』が完成した。
滝沢さんのうたには、油断して聴いていると突然ぐぐっと奥深くに引き込まれるような力がある。
全体的なサウンドのテイストはアーリーエイティーズぽい。プリミティヴだが複雑な音楽だ。
すぐれた女性シンガーは沢山いる。だが、彼女はその誰とも似ていない。
彼女は歌うたいであると同時に、詩人であり、女優でもある。だがその詩人ぶりも女優ぶりもきわめてユニークなものだ。
心ここにないかのような、それでいて震える感情が静かに確かに伝わってくるアルバムだ。
待っていた甲斐があった。これは素晴らしい作品である。」 佐々木敦
美大生時代より活動を開始し、2014年の1stアルバム『私、粉になって』発表後は、シンガーソングライターの枠を超え、元BiSのテンテンコとのユニット、フロリダとしての活動や、演劇ユニットのバストリオの公演への参加等、幅広い表現活動を行っている滝沢朋恵。
約2年振りとなる2ndアルバムは前作に引き続き、カメラ=万年筆の佐藤優介がサウンド・プロデュースを担当。
スカートから鈴木慶一やカーネーションもサポートする佐藤のポスト・プロダクションが、弾き語りでも十分定評のある彼女の歌や曲をより魅力的に演出。
滝沢が70年代初頭のアシッド・フォークにも似た寂寥感溢れる美しいメロディーを紡ぎ、佐藤が80年代のポスト・パンクやニュー・ウェーブ以降のネオ・アコースティック(イギリスのYoung Marble GiantsやEverything But The Girlの二人の初期ソロ作、日本ではD-DAYやミオ・フー等)から、2000年代以降の海外のサッドコアやドリームポップまでを想起させるような繊細で緻密なアレンジ & ミックスを施すことによって、この上なく素晴らしい楽曲が数々と生み出された。
ファースト・アルバムの時点で確立していた独特な詞世界はより研ぎ澄まされ、様々な種類のイベントや演劇作品への参加の影響か、歌の表現力や言葉の説得力も増して、昨今の日本の女性シンガーソングライター作品とは一線を画した、オリジナリティ溢れる傑作アルバムが完成した。
ゲストとして、ザ・なつやすみバンドの村野瑞希がドラムで参加。
マスタリング & ドラム・レコーディングはホース、かえる目、豊田道倫 & mtvBAND他のメンバーで、映画音楽家、音楽プロデューサーやエンジニアとしても活躍する宇波拓が手掛けている。
【収録曲】
1. 星の砂
2. 終点
3. 夜更け
4. おままごと
5. 宇宙旅行
6. 列車の記憶
7. 水平線
8. 傘
9. ダンス
10. SELF AND OTHERS
11. 戻らない